新編 単独行 加藤文太郎 著 (ヤマケイ文庫)

言わずと知れた単独行の加藤文太郎の手記であるが、以前2007年に読んだ版はヤマケイクラシックスの「新編・単独行」で、ベースとなっているのが二見版と呼ばれるものだったのを、今回文庫化(2010年)にあたって改訂、いくつか削除されていた寄稿が追加されている。
画像

前回読んだときから現時点までに山をそれなりに歩き回ったおかげで、今回の読み直しでは描かれている山域の様子をほぼイメージしながら読み進められたのが大きな違いで、加藤文太郎の文太郎たる所以が良く分かったような気がする。夏とは言え、後立山から縦走して穂高から上高地、さらに焼岳、乗鞍、ついで御嶽、さらに木曽駒から南駒まで歩き抜くなど常人に出来ることではないし、厳冬期に有峰から北アを回って烏帽子のブナ立からの下山は脅威の記録と言えるだろう。

追加された寄稿の中でも興味を引くのが、「加藤、吉田両君遭難事情及び前後処置」と書かれたもの、並びに故人の奥様、加藤花子さんの文章である。新田次郎の小説では吉田氏はある意味悪者として描かれ、加藤文太郎を遭難に引き込んだ張本人といった位置付けだが、実際には二人は岳友といっていい間柄であったのは周知の事実。しかしながら、花子さんの文書を読むと、子供をもうけ既に家庭人としての比重を高めていた文太郎にとって、年末年始の槍ヶ岳山行には決して全面的に乗り気ではなく、「山に行くのも大儀だが、友が待っている」と花子さんに語っていたそうだ。この点から考えると、小説の設定は極端にしろ、お正月を生まれたばかりの赤ちゃん、家族と過ごしたかった加藤を引っ張り出したのが吉田氏だったというのは、ありえそうな話ではある。

槍の肩の小屋で吹雪に閉じ込められ、4名パーティの内、2名に下山を命じ、加藤、吉田両氏が天候の回復を予想して、ろくな食料も持たずに北鎌に下りていった。遭難処置の文を読むと、遭難直後の捜査で北鎌第二峰のピーク近辺にビバーク跡が発見されており、さらにその先の尾根西側のルンゼに千丈沢方向への墜落跡を認めている。春になり、天井沢を遡行していた高校生によって遺体が発見されている。千丈沢と天井沢の出合から8丁ほど上手の岩窟近くに加藤氏が、さらに200m上流でピッケルの立った雪の中に吉田氏の遺体。状況から想像できることは、二人は北鎌尾根を完遂し槍に戻る途中で吉田氏が滑落、それを加藤氏が助けに下り、死亡した吉田氏の遺体を埋葬してピッケルを立て、帰還しようとした加藤氏も食事無く力尽きて千丈沢沿いに倒れた、のであろうか。その後遭難現場には「文冨ケルン」が建てられたそうだが、私はまだ実物を見たことは無い。

参加してます。参考になりましたら是非クリックを
画像

にほんブログ村 アウトドアブログ 登山へ
にほんブログ村 写真ブログ 山・森林写真へ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

この記事へのコメント

2012年01月14日 10:24
 大文字山程度の単独行でビビっている私にとっては、絶対的に憧れる存在です。
「孤高の人」は小説とコミックと両方読んでいますが、まったく違う内容でびっくりしました。
2012年01月14日 22:24
KURIさん、こんばんは。加藤文太郎は多くの山好きのヒーローですね。コミックはまだ読んだことないですが、単独行者アラインゲンガーという本を谷甲州さんが書いてますね。山渓で連載していたものを本にまとめたもののようです。そういえば、まだ読んでなかった。。。^^;
2012年01月15日 09:31
ハンスさん、
こんにちは!

記事、拝読いたしまして、過去に北鎌尾根単独行をされた稜線山岳会の記事にのめり込んでしまいました。
誰だったか?私のお友達が、山ちゃんの単独行で、加藤文太郎氏を思い出したと云われてましたが、そんなヒーローに憧れるのは当たり前なのですね。
少しでも爪の垢を頂きたいものです。 
2012年01月15日 12:14
この本、昨年の6月に読みました。
ご本人の素顔がわかるとても良い本でした。
「孤高の人」とこれを両方読むとより良いかもしれません。
 彼の歩いた道を歩けるハンスさんはすばらしいです。
が、私も加藤文太郎氏が力尽きた場所は一度訪問したいなと思っております。
2012年01月15日 21:03
山チャンさん、こんばんは。ろくな装備も無かった時代、山案内人を連れての登山が当たり前だった時代に読図の腕を磨き、装備の工夫をしながら単独行の道を切り開いたサラリーマン文太郎だからこそヒーローなのでしょうね^^)
2012年01月15日 21:07
本読みさん、こんばんは。文富ケルンのある場所は北鎌尾根の根元なので、どうせ行くなら北鎌挑戦しないとダメかな~、などと思うと足が遠のきます^^;

この記事へのトラックバック